ご存知のように糖尿病は血液の中のブドウ糖(血糖)が増えることによって、色々の不都合が起こる病気です。それでは何故ブドウ糖が増えるのでしょうか?
糖分や澱粉ばかりでなく、色々のアミノ酸など、多くの食べ物は、胃腸内で消化されると最後はブドウ糖になり、体内にブドウ糖として入ってきます。この際インスリンという、膵臓のランゲルハンス島から出てくるホルモンが、ブドウ糖やアミノ酸などの養分を細胞の中に取り込み、まずは運動や頭脳活動のエネルギーとして使い、次に臓器や筋肉などの組織を正常に働くように保ち育て、余った分は脂肪やグリコーゲンなどにして貯蔵します(インスリンは同化のホルモン!)。一言で言えば、糖尿病は、程度の差はあるものの、身体にとって必須の同化のホルモン・インスリンの作用が足りなくなった状態です。
それでは何故インスリンが足りない状態になるのでしょうか?皆さんに説明するのに便利なよう私が思いついたオリジナルの流通機構仮説(プラクティス457:1987)で説明してみるとこうなります。
糖尿病は現在の分類法では二つの型に分けられています。ひとつはインスリンそのものがなくなってしまう型(1型糖尿病)、もうひとつはインスリンの作用が不足する型(2型糖尿病)です。 1型糖尿病は、今までずっと頼りにしていた工場が火事になったような状態です。製品の在庫はすぐなくなるので、急いで外から輸入しなくてはなりません(インスリン注射)。併しこの型は小児に多く、成人には滅多にありません(5%以下)。
95%以上の方は2型糖尿病と診断されますが、これには色々な場合があります。製品流通に喩えると、流通の第一段階の障害は元来強力でなかった工場(遺伝的弱点)の能力が年齢とともに段々低下すること。これに加え工場の出荷が次第にスムースでなくなる、例えば出庫係の受付、梱包などの能力が落ちてくること(老化)が考えられます。{実際に交通事故などで急死した糖尿病の人の膵臓には、かなりインスリンが残っていることが多い、と言う様な事実から考えてもこの場合は結構多いらしいと考えられます。}これが従来から日本人の糖尿病の基本の型と考えられてきました。しかし最近は欧米などに多い型も増えてきて、実に色々の場合があるのです。次の段階は輸送の途中でなくなるとか、倉庫に入ったままになってしまうことが考えられますが、現実にはこれはごく珍しいと考えられます。(インスリン自己免疫症候群など)更に次の段階は、送られたあて先が存在しない事ですが、これも実際は滅多にありません(インスリン受容体欠損症又は異常症)。一般に多いのは、需要が増えて製品が不足することと、それと同時に受け取り手が少なく、よく働かず、正しく受け取らないという場合(肥満)(運動不足)で、これが従来の欧米の糖尿病の基本的な型と考えられてきました、しかし、日本にも近年この型が増えてきています。最後に運び込んだものの、うまく使えないという場合もありえます(受容体後異常症)。この段階も研究が進むにつれ、いろいろあることが次第に分かってきています。
最近、私は、個々の患者さんの2型糖尿病は、人類の長い進化の過程で、飢餓に対する種々の適応の結果として起こってきたものとすれば、その発症は、まだ知られないものを含む多くの段階・要素の組み合わせで起こり、その組合せの数は天文学的な数字になり、極論すれば糖尿病は一人ひとり違う病気ではないかと考えるようになりました。原因は何であっても、2型糖尿病でも病態が悪化すると1型糖尿病と区別が難しい状態になり、インスリン注射を必要とする状況になります。